朝、目が覚めた瞬間から世界が決まる。
8時間寝ることが自分の適切な回復習慣だと認識していた。だが、最近はその認識が誤りなのかと疑うことから朝の思考は始まる。
ぼんやりとした現実の実感を覚えながら惰性で歯を磨く、片手には最も身近にあり、人を現実から切り離す現代アイテムが握られている。
他人への興味はないのに無意識にサーチしてしまうことの依存性を何となく意識しながら意味の持たない時間を消費する。
失われた時間を惜しむ間もなく、気づいた時に次の準備に入る。
蛋白質15gを 粉から液体に変えて躰に与える。この毎朝の習慣が自分の肌や肉体に良い影響を与えている、最近はその実感もあまり得られないが染みついた習慣を放棄するのは中々難しい。
抜けない疲労感に心当たりもなく、仕事に行くという漠然とした現実に沿って準備を進めるが、朝から何も生まないこの日常を想い、濁った水たまりに道を阻まれる雨の日のような陰鬱な気分だけが増長していく。
鏡の前に立つ、こちらと目が合うその顔が他人にはどう映っているのか気になるが、他人事かのように髪に綺麗な形を与える。
うん、悪くない、なんて思いながら顔の角度を変えてみる、
まるで今日はついてない日だよと告げるように物が落下する。
腰を曲げて元の位置に置く。無駄なアクションを完了するとそれだけ疲労感を実感させる。
本当にこれから仕事をするのか? という創作の世界を客観しているときの浮遊感に似た思考が自分の心理状態と現実の乖離を生む。
気分の波も大海の大いなる波も人の力ではどうしようもない、操作できようものなら被害は起きないから平和でいい。
思えば孤独だ。仲の良い友人であってもサポートしてくれる同僚であっても、その人らにはその人の別の世界をもっており、一時の連帯感を得られてもどこかで疎外感を得、ふっと孤独の世界へ足を引っ張られる。
誰も悪くないのに、孤独を感じると心の内側に潜んでいた攻撃的な何かが自分の精神や周りの人へ錆びた剣先を向けている。
こんな暗い世界を作り出す脳の一部がきっとあるはずだ。
頭をかち割って頭の腐った脳を取り除き、濁った意識を循環させる血液も抜いてしまいたい。生まれ変わるためには遠く遠く自分の知らない世界に身を置き、新しい自分としてリスタートする必要がある。
なんて飛びぬけた思考を確立するころにはすでに自分が働く場所に着いている。
人前で貼り付ける笑顔の裏には、「心配されるために暗い自分を演出するな」と悪魔のような囁きが脳内に聞こえるせいだ。追撃だ、心配されるという傲慢な思考ですらも他人から苦言をもらうんじゃないかと考える。
脳のアナウンスが自分の声か他人の声か、そんなこと知らない。
自分って何歳だっけ?もうすぐ26歳か。
確かに。人に寄りかかって良い訳ないよね。
同僚は恋人でもないし、家族でもないんだから。
やめようかな、仕事。どっか行きたいな。
今日は晴れ 気温は高くない。肌触りの良い風が秋という失われつつある季節をほんのりと感じさせる。どうせすぐいなくなる。
心の寂しさが足枷のように、帰ることもどこか遠くに行くことも許さない。
あと数分で、仕事という誰もが受け入れた悪魔の9時間に拘束される、とりあえず行ってみるか、どうせそれしかないんだから。
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